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デバイス理解のために

 パワーエレクトロニクスに利用するデバイスのうち
 身近なバイクで見かける回路にある、サイリスタと
 パワーMOSFET等について説明します。また受動素子
 に関して、実際の回路を構成する場合に必要となる
 知識をまとめます。

 使い方を通じ、意外に簡単な原理で動いていると
 感じられると、パワーエレクトロニクスの理解が
 深まると思います。


SCR(サイリスタ)

 最初に取り上げるデバイスは、SCR(サイリスタ)。  バイクで利用されている、CDIの中にSCR(サイリスタ)があります。  CDI(Capacitor Discharge Ignition)は、キャパシタを  利用した内燃機関エンジンの点火装置です。CDIは電気  回路の特性をフルに活用した実用回路と言えるでしょう。  電子点火装置で、原理を理解する回路は、以下です。  原理は、非常に簡単。  サイリスタ(SCR)は、単純なスイッチとしています。  キャパシタのディスチャージに、スイッチを利用。  スイッチにサイリスタ(SCR)を採用した装置がCDIと  解釈できます。  サイリスタ(SCR)は、与える電圧でブレークオーバーして  アノードからカソードに向けて電流が流れます。  ダイオードの接続は、2倍圧整流回路と呼ばれ  元の交流電圧より高い電圧にして利用したい時  使います。  キャパシタに電荷をためるには、Alternator(発電機)を使用。  発電機は、バイクの場合、キッキングで交流電圧を発生  させ、エンジンが動き出すと、フライホイールの回転で  発電を継続します。  内燃機関を利用したエンジンは、自分では回転を開始でき  ないので、kickingやstarter motorを使い、ピストンを上  下動させます。  点火タイミングは、サイリスタ(SCR)のブレークオーバー  電圧を与えるときと同じになります。  点火は、エンジンのピストンが最上位位置に来たときに  最大爆発力を与えるように、センサーでピストン位置を  検出しての対応になります。  ピストン位置は、ピストンの上下動で回転する円盤に  突起をつけ、この突起の有無を電気的に検出して情報  にします。  バイクでは、バッテリーを使わないでも検出できる  ように、磁界の変化を捉えるピックアップコイルを  使うことが多かったようです。(現在も利用)  ピックアップコイルを使うと、発電することになり  交流電圧が発生します。発生した交流電圧を整流し  点火のタイミングを生成します。この整流にフォト  カプラを使います。  フォトカプラは、サイリスタ(SCR)のブレークオーバー  電圧を発生させます。  バイクでは、ピックアップコイルの代わりとして  ホール素子、赤外線センサーを使うことも。  ホール素子は磁界の変化を捉えるのでピックアップ  コイルの代用になります。自動車では、ホール素子  で車輪の回転を利用して、スピード計測させること  もあります。  赤外線センサーは、フライホイールの上に白マーカー  を塗り、回転することで白マーカーのあるなしを検出  できます。  サイリスタ(SCR)は、スイッチの役目をしているので  入手性の問題から、パワーMOSFETやIGBTに置換える  こともあります。  各デバイスに要求される特性を考えます。  キャパシタ   発電機で発生する電圧は、瞬間的に1kV程度に   達するので、2つのキャパシタを直列にしている   ことから600V耐圧を選択します。   容量は、3.3uF程度で充分です。   プラグに火花を飛ばすときは、高電圧が必要ですが   電流は少なくてよく、大きな静電容量は不要です。  ダイオード   2倍圧整流に対応するには、高速かつ大電流を流せる   スイッチングダイオードが必要です。   高耐圧整流用ダイオードあるいはファーストリカバリー   ダイオードを使います。電圧が1000Vで、電流は2A程度   あれば充分でしょう。  サイリスタ(SCR)   2つのキャパシタから放電させるので、回路でみると   次のようになります。   静電容量は2倍になりますが、耐圧は1kVの半分の500V   程度になります。600V耐圧のサイリスタ(SCR)でよいで   しょう。破損することを気にするなら、1000V程度の   ファーストリカバリーダイオードを並列に接続します。  フォトカプラ   サイリスタ(SCR)、MOSFETを導通させるほどの電圧を発生   させればよいので、たいていのフォトカプラが利用でき   ます。   フォトカプラの入力パルス周波数は、1kHz程度ですが   より高速な場合は、データシートを見て選定します。   MOSFETの場合、ゲートドライブ専用のフォトカプラが   あるので、それを利用した方が、高速スイッチングに   対応できます。   フォトカプラの入力には、高電圧がかかるので、内部   のLEDを保護するための抵抗を直列に入れます。   ピックアップコイルの出力電力に耐えられればよいので   LEDを点灯でき、電流を制限できる抵抗値を計算します。   また、焼損しないように、許容電力を1/2W程度にして   おきます。  MOSFET   選定方法は、サイリスタ(SCR)の場合と同じです。   耐圧と許容電流で選びます。   500V、5Aくらいを目安にしておきます。  実際に利用されているCDIは、フォトカプラの出力を  マイコンや電子回路に入れ、エンジン回転数に応じて  点火タイミングを変えています。  点火タイミングを制御するために使われる電子回路や  マイクロコンピュータをECU(Electrical Control Unit)  と呼びます。  エンジン回転数に応じて、点火タイミングを変えるのは  モータの回転で、位相制御を施すのに似ています。  点火タイミングで、そのまま火花を飛ばすのではなく  少し遅れるか進めるかで火花を飛ばすのが、進角制御  に相当します。  点火タイミングを遅らせるのは、信号が変化してからで  よいですが、進めるのは、ヴァキュームセンサーからの  信号やタコメータの情報を利用します。  他に点火タイミング信号の周期を測定し、その値から  推定して火花を飛ばすタイミングを決定することも  やります。  点火タイミング信号から、火花を飛ばす時を決定する  には、情報からの計算が必要で、マクロコンピュータ  や高速デジタル回路を利用します。

ダイオード

 発電機が生成する交流電圧から直流電圧を作り出すには  ダイオードを利用します。このダイオードの使い方から  デバイスの特性を理解してみます。  商用電源は50Hzか60Hzの実効値100Vの交流で、家庭の  電源コンセントまできています。  電子機器を動かすためには、直流電源が必要なので  整流し、直流もどきに変換します。  次の回路で考えます。  AC100Vの場合、正負の最高振幅値は141Vになるので  ブリッジダイオードの1本のダイオードは200V耐圧  を選択しなければなりません。  整流後、キャパシタで平滑化しますが、キャパシタの  耐圧は200Vx2=400Vとします。これ以上であればよい  ので、600V耐圧を指定することもあります。  キャパシタにかかる電圧をシミュレータで確認します。  回路は、以下です。  電圧の波高値は、次のように140V以下になります。  ダイオードに要求される周波数は、商用周波数では60Hz  程度ですが、インバータやエンジン回転での生成周波数  は、1kHzから20kHz程度になります。  ショットキーバリアーやファーストリカバリーのような  逆回復時間が短いダイオードを使う必要になります。

キャパシタ

 パワーエレクトロニクスで使うキャパシタは耐圧を  考える他に、ESR(等価直列抵抗)に気をつけないと  なりません。  実際の実キャパシタは、次のような回路になっています。  直列に接続された、抵抗とインダクタがあるので  直列共振回路を構成することになります。これで  周波数によりインピーダンスが変化します。  ESRが大きいと、電力損失が発生します。  ESRは、できるだけ小さな方がキャパシタ  で発生する熱が少なくなり、経年変化に  よる特性変質が小さくなります。  キャパシタの中には、絶縁体を入れてあるので  絶縁体が熱での特性変化を起こさないように  するのが望ましいでしょう。  パワーエレクトロニクスで利用する基板は、過酷な  環境下にあることも多いので、外界からの特性変質  を起こす熱に対する配慮の他に、自己発熱に関して  も気を配って対応します。  ESRが大きいと、そこで発生する電力が熱に変化して  いきます。流れる電流が多いほど、抵抗で発生する  電力が大きくなるため、ESRが小さいキャパシタを  選ぶことが重要です。  ESRの他に、ESLもあるので直列共振による周波数特性  をもってしまうこともあります。

インダクタ

 インダクタは、キャパシタと並んでパワーエレクトロニクスに  必ず顔を出すデバイスです。  インダクタの特徴は、低い周波数の交流信号を通すが  高い周波数の交流信号を減衰させることにあります。  さらにレンツの法則で、一定方向に流れている電流を  止めると、逆起電力で高い逆電圧を発生させます。  インダクタの等価回路は、純インダクタに直列抵抗と  並列キャパシタが接続された状態になります。  直列抵抗があるので、電流を流すと必ず熱を発生します。  ワイヤーが焼き切れない範囲で使うことが求められます。  基板上にインダクタを固定すると、リード線を伝わって  いく熱で、半田を溶かさないよう充分に気をつけます。  半田が溶けて接合状態がなくなると、性能が発揮できない  ばかりでなく、動作しなくなる可能性もあります。  熱は抵抗分で発生するので、この熱を効率よく逃がすため  に流体に接触させて放熱したり、ヒートシンクでの空冷が  できるように設計段階でスペースを空けます。

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