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熱との戦い
パワーエレクトロニクスは、負荷に対して電力を
最適に供給することが目的です。
回路を利用して電力を供給するので、途中で発生する
損失を、極力少なくします。
電力を供給する場合、損失エネルギーは、熱、音、光
等に変換されます。
損失エネルギーが変換されると、熱、音、光等になり
ますが、この中で最もやっかいなのが、熱です。
パワーエレクトロニクスの回路中には、必ずキャパシタが
含まれます。キャパシタは、温度による劣化や経年変化が
激しい部品なので、キャパシタ周辺の温度変化が激しいと
劣化の進行速度が大きくなり、故障発生の確率が高くなり
ます。
回路での温度変化により、筺体の温度が上昇すると冷却を
必要とする装置では、無駄な電力消費が発生。
回路や筺体の温度上昇は、利用されている部品の劣化や破損
につながるので、故障発生の遠因になることもあります。
そこで、不要な熱の発生を抑える工夫をします。
発生する熱の低減に、次のような対策を考えます。
- 抵抗成分を減らす
- 周波数を下げる
- 与える電力を減らす
3項目に関して、発熱量を減らすための工夫を
見ていきます。
抵抗成分を減らす
電力は、W=IxIxRで計算できます。
この式を損失電力に当てはめると、抵抗分Rに
比例しています。従って、Rを小さくすれば
損失電力は減る方向に動きます。
抵抗分を減らすには、小さな積み重ねが必要に
なります。どうしても減らせない抵抗分も存在。
減らせない抵抗分は、インダクタ、キャパシタ
の中にある、直列か並列の抵抗。
また、トランスを利用する場合、巻線の抵抗分
は、減らせません。
それでは、減らせる抵抗分は、どこに存在するのか
探してみます。
最近のパワーエレクトロニクスでは、インバータの発振には
マイコンを利用しています。ワンチップマイコンを利用して
実装面積を小さくしています。
実装面積を小さくするために、マイコンのピンには
プルアップあるいはプルダウンの抵抗はつけません。
マイコンチップ中の抵抗を使います。
プルアップ、プルダウンの抵抗をなくしていけば
抵抗分は減ります。
微小な発熱量であっても、長時間動く回路には
「塵も積もれば山となる」で、無視できません。
パワーエレクトロニクスが使われる場所は、季節に
よる温度変化もあります。夏の酷暑でエアコン停止
は生命に関わるので、許されません。
抵抗分は、直流、交流を問わずに、電力消費につながる
ため、減らして熱損失を抑えなければなりません。
周波数を下げる
インバータでは、周波数を可変にしてアクチュエータを
制御しますが、周波数が高いと、電圧や電流の変化が
大きく、W=IxVで表されるIやVが大きくなり、積分した
損失電力が増えます。損失電力の一部が熱になるので
損失電力→増加は、熱→増加に比例します。
インバータでは、商用周波数である50Hzや60Hzを使はずに
可聴帯域より、はるか上の周波数を使います。
40kHz〜200kHz程度が常用周波数帯域。
使う周波数帯域を、可聴帯域まで下げても問題ないなら
利用する周波数の1/2〜1/10にします。
スイッチング素子を利用する場合、デッドタイムと呼ぶ期間
を必要とすることがあります。デッドタイムはリアクタンス
や半導体に流れる電流の切り替え時に設ける空白時間。
このデッドタイムがないと、逆起電力で素子破壊が起こります。
デットタイムが不適切だと、静電エネルギーや電磁エネルギー
が素子の抵抗分を使って、熱になり損失電力になります。
周波数が低くなると、必要なデッドタイムを確実に用意できる
ので、結果として損失電力が減ります。
与える電力を減らす
パワーエレクトロクスを利用したシステム全体に
与える電力を減らすと、それに伴って、発熱量は
減ります。
電力はW=VxIで計算できます。
V、Iのどちらか一方あるいは両方を減らすと
与える電力を減らせるので、発熱量も減ります。
この式に基づいた制御方式が、PAM(Pulse Amplitude Modulation)です。
誘導電動機が動き始めて、定常状態になったときに
慣性で回転を維持できるまで、与える電力を減らす
と全体の発熱量を減らせます。
始動するときには、ある程度の電力は必要ですが
運転しているときは、極力、与える電力を減らす
方式です。
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